¦書評 2008

行動経済学の好入門書「予想どおりに不合理」

書評:予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」(ダン・アリエリー:早川書房)

この本で取り上げている「行動経済学」はしおぴーが最近一番気になっている分野。

「いつも最適な選択をする合理的人間」

を前提にした今までの経済学と比較して、

「論理的ではなく、しばしば非論理的な判断をする人間」

を前提にしたこの行動経済学。

特に判断基準がなかったり、頭が足りなかったりしてランダムに間違えるのではなく、

「あるケースではいつも間違える」

あたりに焦点を当てている。

・なぜ人々は「無料」に強く惹かれるのか

・なぜ松竹梅の選択肢があると人々は「竹」を選ぶのか

などなど、人がどんな時に

「バイアスのかかった判断」

をするかを、キャンパスや街のレストランで社会実験を繰り返して実証している。

学術本の体裁ではあるものの、個々のバイアスのかかり方についてわかりやすく説明していて、ビジネスのヒントとしても十分使える。

ただ、個人的には類書「経済は感情で動く」の方が、先に読んだこともあり印象深い。こちらはもう少し学術書チック。

マーケッターであれば、商売に確実に応用できるこの

「行動経済学」

について、まずは上記どちらか一冊読んでみるのがいいのでは。

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完全市場のもろさを暴露「市場リスク 暴落は必然か」

書評:市場リスク 暴落は必然か(リチャード・ブックステーバー:日経BP社)

原題は

"A Demon of our own Design"

「我々が創りし悪魔」

で、自分たちがこの「不安定な金融マーケット」を創ってしまったことについての、懺悔の意味が込められているのでは。

著者が働いてきた投資銀行、ヘッジファンドという少し前の最先端、サブプライムショック後の今では

「衰退していく恐竜」

にもたとえられる業界モノ。その変遷と彼らが巻き起こした金融イノベーション、そしてその弊害として頻発するようになった「暴落」リスクについて。

マーケットの急激な変動が過度のレバレッジによって発生することは他著者も指摘している通り。著者は根本原因のレバレッジそのものの規制を主張している。

逆に空売り規制などのよくある

「市場に対する規制」

には一貫して反対の態度。というのも、規制を作れば対応するシステムがさらに複雑になり、思いもかけぬところで暴落リスクが顕在化する、というもの。

量子力学やカオス理論、ネットワーク理論、生物学などを援用し、

「全てのリスクを見通すことはできない」

「密結合したシステムは脆弱」

「過度の最適化は想定外リスクに対して無力」

という主張はおっしゃる通りで、説得力が高い。

マーケットが理想とした

「情報が瞬時でいきわたる完全効率市場」

は、システムとして非常にもろいということは大きな皮肉。

金融システムはグローバル化することにより世界のマーケットを密結合に変えてしまい、NYでの出来事がロンドン、東京、そして新興国マーケットに多大な影響を及ぼすことになった。

それを粗結合に戻すことは「情報の流通を遮る」ことになり、大きな困難が伴うだろう。

とすると、彼の主張する

「アクセラレータとしてのレバレッジを強く規制すること」

は非常に的を射ているのでは。
#それだけでは弱いかもしれないが、他に選択肢がない、という意味で。

訳は非常にこなれていてレベルが高い。金融用語もきっちり理解して訳していることがよくわかる。他の翻訳ものも、このくらいのレベルでがんばって欲しいなあと思う。


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意外とロジカルでアカデミック「読んでいない本について堂々と語る方法」

クリスマス休暇中はどこも混んでいるので、晴耕雨読の日々。

デッキで栽培中のトマトはさんさんと照りつける太陽と時々きっちり降る雨で順調に育ち、花を咲かせ始めた。収穫が楽しみ~

読んでいない本について堂々と語る方法(ピエール・バイヤール:筑摩書房)

この本は「ジャケ買い」ならぬ「タイトル買い」

この後読む、行動経済学の本「予想通りに不合理」を買ったら、amazonのレコメンド機能でこの本がついてきた。

こういう一発屋的タイトルの本は、気に入ってもリスク高いので普段は買わないのだけど、書評も意外と良かったし、今回はバスケットに入れてみた。

読んでみると、もっとトンデモ本かと思っていたら、意外とまとも。

むちゃくちゃはしょると

読んだ本の内容なんてどうせ覚えていないでしょ

だったら「読んだ」と「読んでない」の境目は無いも同然

本の内容なんて「著者がどんなことを書きそうか」と「他の人がその本についてどう批評しているか」で十分わかる

あとは気後れせずに堂々と「読んでいない本」について語ればいい

という思考の流れなんだけど、それを

●未読の諸段階

●誰に対してコメントするのか

●コメントするときの心構え

の3章に分け、ロジカルに細かく段階を踏んで説明している。

「書評」についての本なので、当然ながらたくさんの本が紹介されていて、そのひとつひとつについて著者による

読み込み度:<未><流><聞><忘>

内容:◎、○、×、××

という2つのランク付けをしている。

「読んでいない本について堂々と語る」

と言うだけあって、ちょっとしたイタズラもここに埋め込まれているのだけど、それは読んだ人のお楽しみ。

フランス語からの翻訳は結構こなれていて、読みやすい。

本体価格1900円はちと高いので、

「本の虫」

であればネタとして十分元がとれるかな。

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マイベスト of 私の履歴書「私の履歴書 人生越境ゲーム」

書評:私の履歴書 人生越境ゲーム (私の履歴書)(青木 昌彦:日本経済新聞出版社)

高校生の頃から、日経はずっと読んでいた。なので二回り、24年くらいの購読歴がある。
#今でもOCS経由で読めるけれど、月$290=14,500円は高いから、あきらめている。

最終面にある「私の履歴書」は興味がある人の時だけ読む程度で、ならしたら半分くらい読んでいたと思う。

印象に残っているのはナベツネ、阿久悠、大賀典雄(ソニー元社長)、藤沢武夫(ホンダ創業者)、中内功、ピーター・ドラッカー、水木しげる、などなど。やっぱり有名人の方がある程度バックグラウンドもわかるので、興味深く読める。

この青木昌彦という人は全然知らなかったのだけど、経済学では結構有名な人みたい。

初回は何の気なしに読み飛ばしていたのだけど、話が全学連、ブントと学生運動に移っていき

「有名な学者さんがそんな(封印していただろう)過去のことを語っても大丈夫なの?」

と不安になるくらいあけすけに当時を語る。ぶち込まれた巣鴨拘置所のこととか、ブント設立から袂を分かつまでとか。

そのあたりから日経を開くと真っ先にこの「私の履歴書」を読むようになった。

著者の自由な発想と、学者らしからぬチャレンジ精神に心惹かれ、最終回がせまるのが残念に思えるほど楽しみにしていた。

それが大幅に加筆され、さらにいくつかの書評、対談を加えて一冊にまとまった。

「人生はゲーム」

社会環境と個人が、相互に影響を与えながら一定の動的ルールの下で変化していく様を、彼は「ゲーム」と表現する。

経済学、社会学、歴史学といった社会科学を包含するかもしれない「動的システム」についての研究だ。

彼はそのゲームとゲームの間を越境しつつ、自分の興味が赴くままにさまざまな「知的ベンチャー」を設立し、失敗もあるものの結果として社会に貢献している。

最終章で彼は言う

「人生ゲームには生きている限り終わりはなく、勝ちも、負けもないのではないか。」

その通り。

しおぴーにとっての「私の履歴書」ベストワンは、この一冊です。

日経ビジネス人文庫に彼のエッセイ集があるのだけど、残念ながら絶版。再版してくれないかなあ→にほんブログ村 海外生活ブログ ニュージーランド情報へ

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人格者オバマは偉大な大統領になるか?「合衆国再生」

書評:合衆国再生―大いなる希望を抱いて(バラク・オバマ:ダイヤモンド社)

なんてまっとうな発送をする人なんだろう。

理想を持ちながら妥協をいとわず、悩みつつも正しいと信じる道を進む。

国を愛し、家族を愛し、貧困を憎み、平和を願う。

バランス感覚にすぐれ、対立する意見も含め多くの人たちの声に耳を傾ける。

原題 The Audacity of Hope は「大胆不敵な願い」となるかな。

アメリカを元気にさせ、世界平和を実現し、国内外の貧困を撲滅する。

老若男女、貧富を問わず市井の人々が元気に希望を持って働けるような国作りをする。

確かに「大胆不敵な願い」ではある。

しかし、彼ならできるかもしれない。

そう思わせる力がこの本にはある。

どうか彼がつつがなく任期を全うできますように→にほんブログ村 海外生活ブログ ニュージーランド情報へ

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前著には及ばず「できそこないの男たち」

書評:できそこないの男たち (光文社新書)(福岡伸一:光文社新書)

前作「生物と無生物のあいだ」は読み進めるのがどんどん楽しくなる、知的興奮を満たしてくれた良書だった。

それに比べると今作はトーンダウンした感じ。

個々の話は面白い。

顕微鏡で初めて精子を覗いた男、Y染色体の発見、女から男が作られる過程、アリマキの特異なオス、「病弱な」男、日本人のルーツ、ハーバードの星のスキャンダル。

でも一本筋が通っていない。一応タイトル「できそこないの男たち」がそれなんだろうけど。1章が雑誌連載の1回分だったみたいで、印象薄いのはそれをまとめて一冊にしているからかなあ。

期待が大きかっただけに、ちょっとがっかり。まあ新書の値段分は楽しめたけど。

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下巻だけでよし「リスク 神々への反逆」

リスク 神々への反逆(ピーター・バーンスタイン:日経ビジネス人文庫)

「リスク」についての壮大な歴史をひもとき、それがいかに現代の投資理論に結びついたかを解説。

原題の"Against the Gods"

"Against the odds" 「困難にもかかわらず(立ち向かう)」

をもじったもの。

なので「神々への反逆」というサブタイトルは悪くない。

上巻はひたすら有史以来の「リスクの歴史」についてルル述べている。投資理論本だと思って読んでいたら、正直かったるい印象は免れない。
#確かに現代投資理論の基礎となった考え方がわかる、という点では面白いけれどあくまで「教養」のレベルで「実践」ではない。

下巻になってようやく投資理論に近づくのだけど、先物・オプションなどは簡単な説明にとどまっているし、カオス理論などはたぶん著者自身も消化不良な中で説明している。

今までいくつかの本でバラバラに吸収してきた投資理論に関する知識が、歴史の流れとして理解できた、というのが一番の収穫かな。訳は正直わかりづらいし、誤訳らしきものも散見。もう少しがんばって欲しい。

ちなみにこの本はブックオフで入手したのだけど、いくつかマーカーが入っていたことに後で気づいた。以下、ピックアップしてみると

●「計算する(calculate)」という言葉はラテン語の「小石(calculus)」が語源である。

●サンドイッチ伯爵は賭博台を離れずに食事ができるように、彼の名を冠した軽食を考え出した。

●「統計(statistics)」という単語は州(state)を数量的に分析したことに由来している。

どれもこの本が伝えようとしている本質とは「かけ離れた」ところをマークしている。どうやら元の所有者は「語源」について興味があったみたいですな。それにしても「サンドイッチ伯爵」は…

下段のamazonリンクは「下巻」のみ。投資理論として読もうと思っている人には、この下巻だけで十分なので。

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ウオール街入門書「強欲資本主義 ウオール街の自爆」

強欲資本主義 ウオール街の自爆(神谷秀樹:文春新書)

著者が当初あこがれ、実際に長年過ごしてきたウオール街が最近「強欲資本主義」へと変節してしまったことに対する、痛烈な批判書。

物作りができなくなったことにより金融資本へ過度に傾斜したアメリカ。

その中心となった投資銀行・ヘッジファンドに、高すぎるレバレッジと超高額の成功報酬、つまり

「今日の儲けは僕のもの、明日の損は君のもの」

というモラルハザードが装備される。

そこにワシントンとの癒着、世界的な金余りといった要素が加わり、今回の金融危機が半ば必然として組み立てられてしまった。まことにおっしゃる通り。

最終章では今後の「アメリカ再生」について新大統領のオバマ(出版当時はまだ民主党候補者)に希望を託しているが、今までのところは明確に「CHANGE」を感じられるまでではない。今後に期待というところか。

後半、あまりにウオール街のモラル低下を強調するためか、その対極にある日本の会社を持ち上げ続けるので、ちょっと身びいきがすぎる感じはした。それを差し引いても、今回の金融危機を巻き起こしたウオール街の変遷についてよくわかる入門書。

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世界一周ベンツ編「冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界大発見」

冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界大発見(日経ビジネス人文庫)

前回はバイクで2年、今回はベンツで3年かけての世界一周。

オフィシャルウエブサイトでリアルタイム更新しつつの長旅。たくさんの写真のほか、ジムの生声も聞けるし、パートナーのページが書いたフットノートも読める。ジムのファンなら楽しめることうけあい。

同行するパートナーが交代しているのはご愛敬。今回の旅の途中で彼女と結婚してた。

戦争地帯を護送部隊と一緒に駆け抜けたり、車を運ぶためにはしけをチャーターして何日もかけてペルシャ湾を横切ったり、外国人が車で通ったことのないインドとミャンマーの国境を越えたりと、前回にも増して破天荒な旅。

行く先々でいろんな人と出会い、たくさんの発見をし、いくつかのヒントを投資に結びつける。こんな地に足のついた旅だから、そこから得られる物も数多い。

一言でいって

「うらやましい」

こんな風に「人生=旅」という過ごし方をしてみたい。

前作「世界バイク紀行」で解説を書いた村上龍がもらったサインに添えられた言葉

「人生は短い。遠くまで行け、そして深く考えよ」

座右の銘とさせていただきます。

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切込隊長節炸裂「情報革命バブルの崩壊」

情報革命バブルの崩壊(山本一郎:文春新書)

言わずとしれた切込隊長の本。

「情報革命」なるブームで起きたことを「新聞に未来はあるのか?」「ほりえもん」「ソフトバンク」などいくつかのトピックを切り口に説明。ネットビジネスはバラ色なんかじゃない、ということはよくわかる。

一番面白かった章は第4章「ソフトバンクモバイル」について。ホワイトプランと犬をひっさげ連続加入者No1を更新中、はた目には絶好調に見えるソフトバンクモバイルの抱える課題の大きさには改めてびっくり。借金の大きさもそうだけど、キャッシュフローがギリギリというところが本当に危ない。自転車操業でもCFさえ回っていれば何とかなるけれど、それがダメとなると早晩バタッと倒れてもおかしくない。メインバンクによる分割売却という、ダイエーの末路を彷彿とさせる。それとも、希代の経営者孫正義の乾坤一擲大逆転ホームランはあるのかな?

懇切丁寧に解説しているわけではないので、自分で読み込み議論の本質を抽出する必要はあるものの、「ネットの行く末」について考えさせられる、示唆に富んだ一冊。

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